ほろ苦いそれは珈琲とよく似ている

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昔から勉強はできる方だった。新しい知識が増えるのはそれなりに楽しかったし、勉強をするという行為が苦痛に感じたこともなかった。 子供の頃は、特にのめり込む程興味をそそられるものもなかったし、体を動かすことも特に好きではなかったから、勉強しかすることがなかったというのが一番しっくりくるような気がした。 「うちにはお金がないから、公立の学校へ行ってちょうだいね」それが母の口癖だった。 僕の家は3人兄弟で、妹と弟がいる。ギャンブル好きの父親をもったせいで、うちにはいつも金がなかった。 そんな父親も毎日のように浴びるほど飲んだ酒が祟ってか、肝硬変になり肝臓癌になり、あっという間に亡くなった。 母は泣いていたが、正直僕達兄弟はほっとした。父親が死んだことで収入は減ったが、出ていく金も減ったため、生活水準は特に変わらなかった。むしろ酔って大声をあげたり、機嫌の悪い時に母を殴り付けたりといったことがなくなっただけ平和になった。 母はなぜこんな男と結婚したのだろう。それが不思議でならなかった。こんな人間の傍で怯えながら生活をする、それが結婚だと考えると僕には結婚への憧れなんて微塵もなかった。 所詮は他人同士の共同生活。上手くいくはずなんてない。そもそもが他人に情なんて抱くからそういった面倒なことに巻き込まれるのだ。僕は絶対にそんな失敗はしない。自分が苦労するための生活を強いられている母親のようにも、責任を全うできない情けない父親のようにもなるまい。そう思って生きてきた。
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