ほろ苦いそれは珈琲とよく似ている

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洋くんからクローンとして出会い、現在までの経緯を聞くと、僕はついおかしくて笑いが止まらなかった。 「そんな話を信じたんですか、彼女は」 「ええ。まさか俺だってこんなに簡単に信じ込むなんて思ってませんでしたよ」 「そんなファンタスティックなことを考えるなんて、凛さんはどこまでも驚かせてくれますね」 凛さんが、なぜ彼のことが好きでありながら自然と先に進めなかったのか、蘭ちゃんとの仲を誤解したのかわかったような気がした。そして佐伯さんという子の意図も。 なぜ彼女がそういう行動をとったのかはわからないが、最初から凛さんと洋くんを恋人にさせるために出会わせたのだということはわかった。 二人の顔が似ているのももちろんだが、何かに囚われてそこから這い出せないでいる、そんな印象を受けたところも似ている。洋くんと凛さんは、互いにその何かと決別するために必要な存在だったかのように思えた。僕では凛さんの過去を払拭できなかったのだ。だから余計に悔しいのだと思う。 洋くんの内に秘める何かも、もしかしたら過去のトラウマに似たものなのかもしれない。自分のことについてを僕には語らなかったが、彼の中になにかが潜んでいることは確かだと直感する。その何かを知っているか知らないかで彼の他人に対するパーソナルスペースも変化するのだろう。
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