ほろ苦いそれは珈琲とよく似ている

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彼女に会えない日々を過ごすのと比例して、外はどんどん寒くなっていく。ようやく暖くなった店内からは、窓ガラスが雲って外の景色は見えなかった。もとい、路地裏に存在するこの店からは、大した景色など見えないのだけれど。 今日もまた、まだ客足のない店内でカプチーノを淹れる。毎日の習慣となってしまったこのカプチーノも、また捨ててしまうことになるのだろう。 綺麗にできた細かい泡を見つめていると、不意に人の気配がして顔を上げた。 「あの、ちょっと早く来ちゃいました……」 待ちわびていた人の声は、僕の心を温かくする。 「いつでも大歓迎ですよ」 「でも、開店したばっかですよね……」 「丁度今、カプチーノを淹れたところなんです。どうぞ、座って下さい」 彼女が座るよりも先に、いつもの席にカプチーノの出せば、彼女は柔らかな笑顔を浮かべて誘われるようにして椅子に腰掛けた。 「試験、どうでした?」 「わかりません……」 センター試験を迎えたばかりの彼女にそう聞けば、不安気な言葉とは裏腹に表情は穏やかだった。きっとそれなりに自信はあるのだろう。そう思えば、僕も安心することができた。
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