ほろ苦いそれは珈琲とよく似ている

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彼女は、僕の淹れたカプチーノにふうっと息を吹きかける。泡の下に潜む珈琲は、そんなことをしても冷めないのに。彼女のその仕草を見ながらいつもそう思う僕は、大事そうにカップを持つ手を眺めながら目を細める。 きっと僕は、こうして毎日彼女が店に来る日を待ち続けるのだろう。来るあてのない彼女のために、カプチーノを用意しながら。 カプチーノの泡が消える頃、日は沈み、僕の気持ちもほんの少し重くなる。 しかし、それでもいい。こんなふうに気まぐれに、ひょっこり顔を見せてくれる彼女のことを待っている自分もそう悪くはないから。 「……美味しい」 「凛さん、口に泡がついてますよ」 「え?」 「嘘です」 「もう!」 上品に口元にカップを持っていく彼女は、泡を唇にくっつけたままになんてしないけれど、そんな姿が見られたらきっと可愛いんだろうななんて想像して笑う。 カプチーノの泡が消える頃、僕は次に貴女に会える日を待ちわびる。 「そういえば知ってますか、凛さん。カプチーノって……」 「カプチーノって……?」 今日は貴女に会えたから、特別な日。目を丸くさせて僕の視線を捉える貴女の時間を独占できる、唯一の空間。 これからも毎日、貴女のことを考えるくらい許して下さいね。 【おわり】
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