掃き溜めのクリエイター

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 うちのベランダの高さは、4階。  確実に死ぬには7、8階いるから、もっと上に行かねばならない。  うちのマンションは10階。屋上への扉は封じられているから、雨どいを伝って上に登らなければならない。  5月の生ぬるい夜風が不快だったし、排気ガスの煤で汚れた雨どいはつかみにくかったが、公園の遊具で遊んだ子供心が蘇り、これから死のうというのに、身体には妙に力がみなぎっていた。ロウソクの炎が燃え落ちる寸前の輝きというやつかもしれない。  屋上のフェンスに辿り着いた。  フェンスを背にして、街を見下ろす。  恐らく日本のどこにでもあるような、平均的で退屈なビルと、どこにでもあるチェーン店の看板が立ち並ぶ、やる気をなくしたような街。  真下をみる。足元がすくみ、心臓がきゅっと締め付けられる。通行人らしき者はいない。巻き込んで、関係のない誰かを道連れにするわけにはいかない。  今日は曇っていて星も見えないし、妙に静かだ。車の通りもほとんどない。  俺は一人で生きて、誰に知られることなく、こうやって静かに、一人で死ぬ運命らしい。  どこかで火事でも起きたのか、サイレンの音が鳴り響いている。音の方に目を向けてみるが、それらしき火の手は見えず、夜なので煙も見えない。音は次第にその一方ではなく、そこかしこから鳴り響き始める。  ふと「巨大地震」または「津波」の言葉が頭をよぎるが、今のところ余震らしき揺れは感じない(高さに足首が震えてはいるが)し、海からはかなり離れている街だ。  一体、何事なのだろうと辺りを見渡していると、西の空を覆う雲のなかに、一筋のオレンジ色の光が見えた。 「何だありゃ? 流れ星か?」  大気圏で燃え尽きる流れ星が、火球として目撃されて撮影された動画を何度か見たことがあるが、あの類だろうか。  光が雲を突き抜ける。街の明かりに、その物体の一部が反射して、長細い胴体が見える。 「いやいやいや……そんな馬鹿な……」  あれが俺の思っているものだとしたら、どうして政令指定都市みたいな場所じゃなくて、ここなんだ? そう言えば米軍基地が近くにあったけど、まさかそんな……。
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