まもるべき純情

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―――  茜音が通う姫丘高校の一年生、茜音のクラスの三時間目の授業は体育だった。体育館で、男女合同でバドミントンをやった。外が生憎の天気だったからだ。普段、男女の体育は別々である。  授業自体は平穏無事に終わった。事件はそのあとに起こった。  茜音は道具の片付けを命じられていた。ラケットやシャトルを、体育倉庫に戻さなければならなかった。  倉庫の中は整理整頓が不十分だ。いつもそう思うが、どうも姫丘高校には大雑把な人間が多いらしい。  ラケットを所定の場所に置こうとしたときだ。 「おーい千月。早くしろよ。倉庫閉めるってよ」  男子クラスメイトの前田の声だった。いわれなくてもわかっている。 「うっさいなあ、今やってるよ」  普段からこんな男勝りな口調で話すわけではない。相手がお調子者の前田なので、ペースを握られないように先に主導権を握るのだ。前田は倉庫に入ってきた。 「散らかってんなあ」  乱雑に物品の置かれた中を、野球部員特有の面長くりくり坊主頭がやってくる。お洒落ボウズなんて言葉があるが、彼には縁のないワードだ。 「いいから、入ってこなくても――」  その瞬間だった。前田が足を取られて、茜音のほうに倒れてきた。二人の身体がぶつかった。
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