まもるべき純情

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「え、ちょ――」  身体がぐらりと揺れたのと、背中が何かにぶつかったのが同時だった。続いて物音が室内に響く。茜音は前向きに倒れようとしていた。  マットなのか跳び箱なのかボールなのか――何に背中を押されたのかはわからなかったが、茜音は床に叩きつけられそうになった。咄嗟に手を着いた。背中にはちょっとした重量感がある。  数秒後、何となく事態を把握できた。積み荷が崩れてきたのだ。こんなベタ、あっていいのだろうか。  それから下を見て驚愕した。なんと茜音の真下に、前田が仰向けで寝そべっていたのだ。  えぇええっ――?  しかもしかも――前田の顔面の位置に、茜音の胸が押し付けられる寸前だったのだ。間は数センチしかない――ように思う。なので少しでも腕を曲げてしまうと、前田の顔に触れてはいけないモノが触れてしまう。ギリギリの状態だった。  これマジヤバイ――。誰かに見られたらどんな噂を立てられるか。 「いってぇ……マジか」 「ダメっ。声出すな」  咄嗟に小声で怒鳴った。見つかってはいけない。羞恥心から、茜音の脳裏に真っ先に浮かんだのがそれだった。だから口を閉ざして、クラスメイトたちが倉庫から、いや体育館から離れるのを待った。この判断が誤りだった。  やがて倉庫の扉は閉められ、ガチャリという施錠音を聞いた。  そして現在である。ああ、どうしよう――。
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