1・ふたつの月

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「そんな不安そうな顔しないの。姫は王子様を 待っていれば良いのよ。それじゃあお疲れ様、 満夜ちゃん」 言いたいことを言って、康子さんはにこやかに 手を振り、降車駅で降りて行った。 後に残された私は閉じたドアの窓から、 夜空に丸く弧を描く月が見上げた。 望月という名の彼。 満月の夜に産まれ、満夜と名づけられた私。 同じような意味の名を持つ二人が、満月の今夜 出会うなんて、偶然にしては出来すぎで…… 私はどうしてこんなにあの人のことが 気になるのだろう。 もう一度あの人に会いたいと思うのはなぜ? こんな気持ちになったのは初めてだった。 あの人とは、ほんの僅かな時間を 共有しただけだというのに。 頭に浮かぶ一つの答え。 それこそまさかだと心の中で否定して、静かに 夜の街を照らす、丸い月を見つめ続けた。
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