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「そんな不安そうな顔しないの。姫は王子様を
待っていれば良いのよ。それじゃあお疲れ様、
満夜ちゃん」
言いたいことを言って、康子さんはにこやかに
手を振り、降車駅で降りて行った。
後に残された私は閉じたドアの窓から、
夜空に丸く弧を描く月が見上げた。
望月という名の彼。
満月の夜に産まれ、満夜と名づけられた私。
同じような意味の名を持つ二人が、満月の今夜
出会うなんて、偶然にしては出来すぎで……
私はどうしてこんなにあの人のことが
気になるのだろう。
もう一度あの人に会いたいと思うのはなぜ?
こんな気持ちになったのは初めてだった。
あの人とは、ほんの僅かな時間を
共有しただけだというのに。
頭に浮かぶ一つの答え。
それこそまさかだと心の中で否定して、静かに
夜の街を照らす、丸い月を見つめ続けた。
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