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「それじゃあ満夜、ここにサインしてくれ」
たった今もらったばかりの指輪をしげしげと
眺めていると、膝の上に一枚の紙が乗せられた。
「なにこれ?」
カサカサであまり上質とは思えない紙を広げると、
それには婚姻届けと記されていた。
結婚するからには確かにこれは必要だけれど。
「私、印鑑なんか持ってないけど?」
「心配するな。挨拶に行った時に、お義母さん
から借りてきた。あと、謄本とか必要書類も
取り寄せてもらったから」
鞄から印鑑などを取り出した大翔は、テキパキと
食事用のテーブルを移動させ始める。
何て手回しが良いんだろう。
昼間様子を見に来た母は、そんなことは一言も
言っていなかったのに。
「なにをボケっとしているんだ?
書き方がわからない?」
あまりの準備の良さに圧倒され、呆然とそれを
見ていた私は、ボールペンを渡されてようやく
我に返る。
「ちょと待って。私はまだ大翔のご両親に
挨拶もしていないのよ。婚約はいいとしても、
入籍なんて……」
「だから心配するなって。俺の親には報告した。
おまえに会いたがったけど、入院してるから
来るなと言っといたから、退院したら会いに
行こう。孫が生まれると知って喜んでたぞ」
言葉にしなかった私の懸念にまで全て答えると、
大翔はさらに届け出用紙を押し出し、にっこりと
笑みを浮かべた。
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