3806人が本棚に入れています
本棚に追加
なんとなく疑問の残るままだけれど、その
笑顔に後押しされて、言われた通りに署名と
捺印をする。
書き終えるのを隣で見ていた大翔は、それを
取り上げてミスや漏れを確かめるかのように、
じっくりと用紙全体を見回すと、「良し」と
小さく頷き、クリアファイルに丁寧にはさんで
鞄に入れた。
「さてと、今から役所に行って出してくるな」
「え、今から!?別に明日でも良いでしょ?」
「今日は大安なんだ。それに、善は急げって
言うだろ?明日また来るからな。愛してるよ、
奥さん」
そのまま椅子から立ち上がった大翔は、チュッと
音を立てて唇を合わせると、引き止める間も無く
颯爽と部屋を出て行った。
「大翔って、あんな人だったっけ……」
手抜かり無く全ての準備を整え、反論の
余地も無く簡単に丸め込まれてしまった。
今のが彼の仕事のスタイルなのだとしたら、
成績が良いのも頷ける気がする。
「奥さん……か」
その言葉の余韻に浸りながら、まだ彼の感触の
残る唇にそっと指先を滑らせた。
END
最初のコメントを投稿しよう!