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帰宅ラッシュの人々の波に逆らい、改札を
通り抜けると、空は茜に染まり、街灯に
明かりが灯り始めていた。
向かう先は、近代的な高層ビルが立ち並ぶ
この界隈では珍しい、古風な外観の建物だ。
地上十階、地下二階。
明治時代末期に建設された建物は、
古めかしい佇まいの中に、堂々とした
風格を醸し出している。
いつものように玄関前を通り過ぎながら、ふと
横目でクローバーの描かれたシャッターを見た。
なぜか今日に限って、この場所で恭しく
迎えられたかつての記憶が甦る。
そんな遠い思い出を頭の隅に追いやり、足早に
通用口に面した路地を曲がった。
常に業界トップクラスに名を連ね、
押しも押されぬ地位を保つヨツバ銀行。
私はその本社営業部のビルで派遣の
清掃員として働いている。
高校を卒業以来、いろいろな仕事を
転々とし、今の仕事に就いたのは五年前。
地味だけれど仕事は性に合っていたし、
夕方から深夜にかけての勤務というのが、
何より私にとって都合が良かった。
最近ではベテランと呼ばれるようにもなり、
自分でもそこそこに経験を積んだと自負して
いたというのに……
この夜の私は、ちょっとした、けれどもこの職に
就いてから初めてのトラブルに見舞われた。
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