2・驚きと、喜びと、悲しみと

29/29
3743人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
「それなのに、おまえは……一人でお母さんを 支えて頑張ってきたんだな」 「えっ……」 情けない顔を見られたくなくて、俯きかけた 私の耳に聞こえた思いがけない言葉。 ハッと顔を上げ、望月君を見た。 彼は優しい目で私を見つめている。 「自分も辛かったはずなのに」 その言葉を聞いた途端に、涙が浮かんできて 視界を歪ませた。 止める間も無く、一粒頬を伝っていく。 「なん、で、そんなこ、と……」 父を亡くし、唯一頼りにしていた兄が姿を 消して以来、母を守るのは私の役目。 当たり前のことだとしてきたことだけれど、 こんなふうに優しい言葉をかけられると、 張りつめていた気持ちが弛む。 「あ……ありがとう……」 はらはらと涙が零れ落ちていく。 嬉しかった。 自分のことを認めてもらえて。 ずっと押し殺してきた本当の気持ちを 理解してくれる人がいてくれて。 「なあ、お母さんは起きてこないよな?」 母の部屋を振り返りながら、望月君が私の 肩を恐々と抱き寄せる。 「きっと……朝までぐっすりだと、思うわ」 答える声が泣き笑いで震える。 この夜私は望月君の胸に縋り、事件以来初めて 気のすむまで涙を流したのだった。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!