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俺のささやかな疑問は誰にも届くことはなく、騒がしく入室してきた奴によって書き消された。
教室前方に目を走らせると、そこにいたのは息を乱した佐藤だった。
いつもきっちりと整えられた髪はボサボサに乱れ、規定通りだった制服も着崩れている。真っ白のブレザーには少量の血が飛び散っており、鼻にはティッシュが詰められていた。鼻血を出したことが察せられる。
「ずみまぜんっ、はぁっ、ぢごっ、ぢごぐじました!」
唖然としていた原チャンは、佐藤の言葉に気を取り直したのか、咳払いをして近づく。
「どうした佐藤。誰に、何をされた? 先生に言ってみろ」
「へっ!? あ、いや、これはなんでもないんです。強いていうなら自己管理がなっていなかったと言うか」
ぶんぶんと両手を振って、鼻に詰めていたティッシュを外し、気にしないで欲しいと雄弁に語るその態度に原チャンは端整な顔を顰めた。俺も一緒になって眉根を寄せる。
誰だ、大事な俺のクラスメイトに手を出したバカ野郎は。
「あははは。ほ、本当になんでもないんですよ? 先生が思っているようなことはなにもないですから」
「……信じていいんだな?」
「はい」
力強く頷く佐藤に圧をかけながら念を押す教師と言う名のヤンキー。暫く見つめあっていた2人だったが、先に折れたのは以外にも原チャンのほうだった。
「……はあ。わかった。今日のところは信じてやるから、席に着け」
「はい」
大きなため息を吐いて敗北を口にした原チャンに、佐藤は返事を返して席に着く。
後で俺が聞き出すんで安心してください。サムズアップを向けると、俺に合わせて藤咲も親指を立てた。
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