【一章】ここは薔薇の花園です

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「ヒナくん酷い。なんでそんな楽しそうなことやってるの。しかも佐藤くんも! 僕も呼んでよっ」 「えぇー。だって遅刻して教師に目をつけられたくないって言って断ってたじゃんか」 「それはヒナくんの言い方の問題だよ! 何あのメール。『俺と過酷な運命を歩んでくれないか』とか言われたら断るよ」 「雛人くんと藤咲くん、そんなやり取りしてるの? はあー、いい。最高だね」 「なははは。ごぉめんねー」 「もう許す!」 プンプンと怒ったふりをしている藤咲に食いかけのメロンパンを差し出しすと、怒り顔のまま豪快に齧り付く。こういうところは一々男前だよな、本当。 仲直りの印に藤咲は玉子焼きを一つ摘んで俺の口元に運んでくるので、こちらも遠慮なく頂いた。 「ここがエデンか」 一部始終を目の前で眺めていた佐藤は、頬を紅く染め幸せそうな緩んだ顔をして携帯を取り出しカメラ機能で録画していた。 「『あーん』だ。これホモ漫画でよく見るやつだ。ああ、ボク今凄く腐男子やってて良かったって思ってるよ」 ブツブツと天を仰ぎながら呟く佐藤はなんだか恐い。俺は藤咲の耳に唇を近づけて、内緒話の体制を作る。藤咲は心得たかのように応える。 「なあ、フダンシって何だか分かるか」 「分かるわけ無いでしょ。ヒナくんお得意のグーグル先生に頼ってみてよ」 「あっ、そうか!」 「内緒話してる二人も超可愛い。なんだこの幸せな空間」 「……佐藤って案外俺寄りの馬鹿だよな」 「……ごめん、佐藤くん。今の僕は否定する力がないや」 「藤咲超失礼」 「ヒナくんだって」 藤咲に言われ頭上の電球が光ったような錯覚に陥った俺はいそいそとポケットを漁った。その間も佐藤は何処かに飛んで行ってるのか、俺たちを見つめて涎を垂らしている。 あ、机に垂れた。 スマートフォンよりも先に出すものがあるな。俺は指に触れた機械ではなく、布を引っ張り出し佐藤の顔面に目掛けて投げた。 「汚ねえから、それで拭けよ。……そんで、ちゃっちゃらちゃっちゃっちゃ~! スマートフォン~」 「あ、ありがとう雛人くん。洗って返すね」 「んー」 「フダンシってどういう字で書くの、佐藤くん」 ようやっと帰ってきた佐藤がにこやかにお礼を告げながら机を拭き、椅子を引きずって俺の左隣に座り直す。元々右隣にいた藤咲はふんふん鼻息を鳴らしながら覗き込んでいた。
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