【一章】ここは薔薇の花園です

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「なんの画像だったのーーーて、うっわあ」 一緒に覗き込んでいた藤咲が苦虫を噛み潰したような顔をする。お前のそんな顔初めてみたぜ、と現実逃避してみるが、画面に表示された画像が変わることはない。 「たしかに、初心者にはちょっと激しいよね。あははっ」 余裕綽々の笑顔でいられるのは、この場では佐藤だけだろう。俺と藤咲は、勇者を見るような目で佐藤に視線を送り、消すように促した。 なんせ、トラウマ物の画像だったからだ。視界になど入れたくない。 「…………だから言ったのになあ。ほら」 佐藤は優しげに微笑んで困り顔。そのまま俺からスマートフォンを受け取ったかと思うと画像を向けた。 「うぎゃああああああああ!!!? バッカ!こっち見せるなああああ!!」 「ひええええええええええええ!!!」 映し出された画像は、ムッキムキのマッチョ男二人が絡み合ったものだった。それだけなら「ほーん。腐男子とやらはこんなのが好きなのか」と鼻をほじりながら返せたが、それで終わらないのが“やおい”というものらしい。 男のアレが……下半身の中心に鎮座するアレが、もう一人の男のケツに……。 恐怖もんだろ。ホラーだろ。グロデスクすぎんだろ。 「この絵師さんはね、腐男子・腐女子の界隈ではちょっとした有名人なんだよ。カリスマって呼んで崇めている熱狂的ファンもいるんだよ」 凄いでしょ、なんて言って瞳をキラキラと純粋な少年のように輝かせている佐藤には悪いが、一切思わない。だが、それは俺だけのようで。腕をクロスして顔を隠す俺とは正反対に、藤咲は覆った両手の平の指に少し隙間を作りチラ見している。 乙女の表情だ。このシーンだけ見ると、本当に女の子ではないかと勘違いをしてしまうくらいの、乙女顔だ。 俺は戦慄した。 腐男子じゃなくても、このグロ画像に惹かれる人間はいるんだ。も、もしかして俺も……? 「う、うわああああ」 とうとう頭を抱えて嘆く俺を他所に、佐藤は未だに別のホモ画像を映し出し熱弁、藤咲はもう顔を隠さずに熱心に話を聞いていた。 そう言えばさっき、佐藤は『腐女子』と言ったか。 俺は目をスッと細めて髪の隙間から佐藤を観察する。なるほど、さっきの文面だけじゃ分からなかったが、腐男子とは腐女子の男版ということなんだよな。 俺の口角が自然につり上がり、悪どい笑みを作り上げる。
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