【一章】ここは薔薇の花園です

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◇ ◇ ◇ 混沌とした昼休みは、予鈴の鐘が鳴り解散となった。 授業中、藤咲は余韻に浸るようにポーっとして来る教諭全員に心配されていたし、佐藤は趣味を披露した挙句暴走した熱弁を思い出し自己嫌悪で始終何かを呟いていた。 俺はというと、頬杖をついて今後の繰り広げられるだろう展開を思案していた。 シナリオが始まるとすれば、夕食時の食堂ではあるが、俺が見ていないこの時間帯から始まっている可能性もあるのだ。ここからは慎重に進むべきだろう。 それには、佐藤の……いや、腐男子の思考が必要不可欠というわけだ。俺は組んだ指の上に顎を置き考えに耽る。気分は悪の親玉。 高級そうな赤い布と金で縁どりされた椅子に深く腰掛け、黒いマントを羽織って王者の風格を漂わせる自分。 かっけえじゃんか、俺! さすがは俺。皆のもの、この雛人様を崇め奉るが良い。はーはっはっはー! 妄想の世界にトリップしていた俺は、学級委員長が号令を出す声で我に返る。はっとして、教室前方を確認すれば教団には原チャンが立っていた。慌てて席を立ちクラスメイトに合わせて軽く会釈。これにて、本日の学業は全て終了だ。 俺は机の横に引っ掛けていた空のスクールバッグを持ち、藤咲と佐藤に声を掛け教室を出、ようとしたところで、俺の名前を鋭く呼び止める声がした。 恐る恐る振り向くと、鬼の形相をした原チャンが仁王立ちしている。その横には学級委員長の片倉(かたくら)が日誌を持って少し眉を下げている。 だらだらと滝のように冷や汗が流れ始めた。 「ど、どうしたの、原チャンと片倉」 やっべ。声が裏返った。 「どうしただぁ? お前、まさかと思うが今朝のこと忘れてないだろうな」 「今朝?」 はて、今朝のこととはなんぞやもし。ぽくぽくぽく、と腕を組んで思い出そうとするが、全く持って出てこない。今朝なー、今朝……あ、今朝といえば、転校生来たから今日は食堂行かないとだな。アイツ怒るかな。怒るだろうなあ。朝飯だって食って行かなかったし、脱いだ服畳んでないし、転校生の話も途中で切り上げちゃったし……。こりゃ、2時間のお説教コースかな。 俺の思考はどんどん寄り道していく。
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