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原チャンにしては珍しい微笑みを浮かべる。俺はそれが見てはいけないもののような気がして、急に照れくさくなり下を向いた。
「だ、だからって高2の男児を抱き上げるのは如何なものかと思うんすけど」
「こうしないとついて来ないだろ。仕方なくだ、仕方なく」
「言われればちゃんと行きますもん」
「ははっ。嘘つけ」
うん、嘘。心の中で肯定し口では否定する。もしも声に出して肯定したら、原チャンはいつもみたいに意地悪な顔で笑って文句を言うのだろうか。そんな気持ちもあったが、今の原チャンは俺にとっても珍しく優しいから、勿体無くて結局飲み込んだ。
その代わり、小さな声で俺は感謝の言葉を口にした。
「ーーー……あ、ありがと、っす」
本当に小さくて、耳をすまさないと聞こえないような音量で。
その時、俺の頭上で原チャンが顔を真っ赤にしてニヤけそうになる顔を必死に堪えていたことも、周りのクラスメイトが微笑ましそうに俺たちのやり取りを見守っていたことも、自分の羞恥を隠すことでいっぱいだった俺は気づきもしなかった。
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