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なんだっけなぁ。ついさっきまで覚えていたような気がするんだけど……。上体を起こして腕を組み首を右へ、左へと交互に傾げる。漫画であれば、ぽくぽくぽく、一休さんのような擬音が俺の背景に書かれていることだろう。
「うーん……なんっか忘れてるような」
俺にとって、とても大事な用だったことは覚えているのだが、どうにも思い出せない。これはもうお手上げだ。頭を掻いて諦めた俺のスマートフォンにタイミング良く軽快な音と共にメッセージが届いた。
相手は……、佐藤だ。
佐藤とは昼休みの間にアドレスを教えあっていた。俺としては俺の計画のためというとても打算的考えで、佐藤は普通に友人の印として交換したのだ。だが、俺の優秀な頭脳が言っている。それだけではないと。
俺、もしかして佐藤の中でいい燃料として思われているのかも。なにそれ可哀想すぎるじゃん、俺が。
「えぇと、なになに? 『7時に食堂前って言ってたけど、まだ着かないの?』」
続けて、再びスマートフォンが音を鳴らして通知を知らせる。
「……今度は藤咲だ。『早く来ないと先に食べちゃうよ』……、写真ついてる」
そこに映し出されていたのは、ホカホカと湯気が立っているであろう美味しそうなナポリタンと親子丼、そして佐藤と藤咲がピースサインしている写真だった。突然の飯テロにじゅるりと涎が垂れる。
というか、思い出しちゃった。そうだ、俺、転校生と生徒会の第2イベントを確認するために今日は食堂にしたんだ。俺の書いたシナリオが、腐男子の妄想力とどれだけ合致しているかも知りたかったし。
大口叩いて佐藤と藤咲に「この時間までに集合しなかったら奢りだからな。忘れんなよ~」原チャンに連行されながら伝えていたのだ。自分で言っておいて忘れるなんてアホすぎる。俺は片手で顔を覆って項垂れる。
いや、今気にするのはそんなことじゃない……か。
冷や汗をダラダラと滝のように流して、ソファーの背もたれ越しに浩貴を振り返った。
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