【第二章】食堂で始まるのは戦争です

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さすが金持ち校というべき最新式のシステムが完備されたキッチンで鼻歌を歌う浩貴は、最後の盛りつけにかかっている様で、とてもじゃないが「わっり☆ 実は今日の夕飯は食堂にするんだわー。それ置いといてくんね?」なんて言える雰囲気ではない。 俺はごくりと固唾をのんで、もう一度スマホの画面を見つめる。時刻は7時30分ーーー俺の身体能力を持ってすれば10分足らずで食堂には着けると確信はしている。転校生、または生徒会がまだ来ていなければ間に合うのだが……。 でも、そうしたら浩貴はどんな顔をするか。それを解っているからこそ、言い出せない。 ぐるぐるぐるぐる。堂々巡りの思考に陥った俺は、挙動不審にスマホと浩貴を繰り返し見つめる。 「お待たせ~。今日はチャーハンと餃子だよ。ほら、雛人も手伝って」 ほかほかと湯気を立たせたチャーハンが乗った皿を手にしながらキッチンを出てきた浩貴に、俺はソファーの上で正座をした。やっぱり言おう。今日この日のために5年も前から計画してきたんだ。 「あ、あのさ……浩貴。その、あーの……さ」 口内がパサパサと乾いていく。心臓が嫌に高鳴った。 「きょ、今日は食堂にいかない!? 折角作ってくれてアレなんだけどさ、いや、帰ったらちゃんと食べるし。てか食堂に行くのは別に食べるとかが目的じゃないから」 早口で言い切った俺は浩貴の顔をまともに見れず、下を向く。もしも今、浩貴の顔を見てしまえば俺は冗談だと言って諦めていしまうだろうからだ。 なかなか反応を返さない浩貴。沈黙が重い。 数秒固まっていた浩貴が、机の上に皿を置いた気配がした。罵られるかと身構えた俺だったが、 「あ、もしかして前に言ってた計画関連? そっか、ならしょうがないね」 「…………へ?」 「なに驚いてるの」 「え、いや、えぇー? ヒナくんちょっとびっくりだよ。なんか、もっとこう、さー……作ってやったのにその態度はなんだー、みたいなこと言われるかと……」 俺の言葉に浩貴はよく見せる格好つけたような、それでいて様になる大人びた微笑みを浮かべた。 その表情に心臓が大きく高鳴る。
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