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都会の雑踏から北にずっと進み、乗り換えを合わせて電車で二時間、更にバスで一時間、徒歩で三十分の山奥に立つところに、そこはあった。
手入れの行き届いた豪奢な門の表札には、『葉蘭園男子校等学園(はらぞのだんしこうとうがくえん)』と彫られている。どうやら純金のようだ。
あまりの豪華な門に少年は気の抜けた声で感嘆の吐息を零した。
だが、今はそんなことで関心している時間はない。ずり下がった眼鏡のブリッジを指で押し上げ、門を見上げた少年は、さて、どうするかと思案した。少年の背丈より2メートルあるだろうと目測し、他に入れそうな場所はないかと探す。
「……ん?」
大理石の表札の反対側の柱にインターホンを見つけた。門にはミスマッチした一般家庭にとって馴染み深い形のそれに、少年は何の躊躇いもなくボタンを押す。
ピンポーン。少しの間が空いた後、凄みのある低い声で用件を訪ねられる。自分が転校生であることと、予め送られていた生徒証を見せる。またもや間が空き、暫くそこで待つよう告げられ通信が切れた。
大人しく言われた通りに、柱に凭れかかり門が開くのを待つ。しかし、十分二十分と待っても開く兆しの見えないその門に少年は痺れを切らした。
頑張ればよじ登れるような作りのそれに、少年は目を走らせ、暫し理性と葛藤。程なくして苛立ちが勝り、気づかれる前に登ってしまえばいいだろう、と異議を唱える理性を黙らせ、足をかけた。
そう時間は掛からず、門の天辺に辿り着くと遠目でしかわからなかった校舎が瞳に映る。
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