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今日からここに通うのか。少年は期待に胸を躍らしていると、真下から素っ頓狂な声が聞こえた。
びくりと肩を揺らして見下ろすと、眼鏡をかけた真っ黒髪の美少年がこちらを見つめている。気づかれたことに対し軽いパニックに陥った少年は足を踏み外し、急降下。幸か不幸か美少年の真上に落下してしまった。
ドシッ、バッターン!
覆い被さるようにして落ちた少年に、美少年は受け止めきれずに一緒に倒れてしまった。少年は慌てて起き上がり謝罪を繰り返し、対して美少年は苦笑い。
お互いに怪我がないことを確認し、位住まいを正した美少年は少年へと注意を促した。
「門を登るなんて非常識は褒められた事ではありませんが、待たせてしまったこちらの責任もありますから。今後お気をつけ下さいね」
「は、はいっ。本っ当にごめんなさい!」
パンッと顔の前で両手を合わせて再度謝罪を返す。
「もういいですよ。……それよりも、自己紹介が遅くなりましたね。私の名前は色堀蒼人(しきおりあおと)と申します。この学園の生徒会副会長をしております」
美少年は自己紹介と共に、にっこりと口の端を吊り上げ笑顔を作る。蒼人と名乗る美少年に、少年は首を傾げた。
「……あの、さ。なんでそんな変な笑い方するんだ?」
少年のその言葉に蒼人は瞠目した。自分の作り上げた笑みを指摘されたのが初めてだったからだ。しかも今知り合った少年に、である。
自然と口角が上がっていくのがわかった。
「ーーー私のこの笑みに疑問を持ったのは貴方が初めてですよ」
「は、」
「素晴らしいです。…うん。気に入りました」
呆ける少年の手を握り蒼人は頬を紅潮させる。少年は頭上にたくさんの疑問符を浮かべながらそっと握られた手を離すように抵抗をした。
ーーーこの時、どこか遠くで止まっていた歯車が動き出す音が聴こえたような気がした。
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