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◇ ◇ ◇
廊下を走ってはいけない。
これは、風紀委員手製の張り紙が各階に貼られ注意喚起を促し、集会時の注意事項でもよく教師から散々言われていることだった。ウザイと思いつつも、教師たちが口酸っぱく言っているのは、危険なことだからと分かっていたし、俺たち生徒の身を案じているからというのも理解している。
ただ、人間というものは禁止されると無性に逆らいたくなる性のようで、時折廊下を駆けては説教されている生徒がちらほらといた。
斯く言う俺もその一人であり、何かと問題を起こしても起こさなくても風紀委員に呼び出される。俺を見てため息、ため息、そしてため息。
委員長はいつか禿げてしまうのではないだろうか。ひっそりと心の中で嗤う。
そんな俺だが、今回は冗談なしに真面目に校則を破っていた。それは何故か。答えは簡単なもので、要するに遅刻しそうだからだ。
バタバタと騒がしく段飛ばしに階段を駆け上がり、2学年の回廊に到着。そこから更に直線の廊下をひた走る。
他のクラスは点呼が始まっているようで、教師に名前を呼ばれて真面目に返事をしている生徒の声が聞こえてきた。
サーっと血の気が引く。うちのクラスのことだ。とっくに点呼は終盤に来ているに違いない。
更に走るスピードを速める。
ようやっと見えてきたB組に安堵の息を吐いた。窓から様子を伺うと点呼は始まっているが、俺の名前までは来ていないようだ。安堵しながらも、まだ油断は出来ない。担任教師の原田(はらだ)ーーー通称原チャンは不良のような見た目の割に意外と真面目な教師。見つかればチョークが飛んでくる恐れがある。
後ろのほうに回り、音を立てないようにスライドさせて開ける。四つん這いに入室し、こそこそと席を目指す。俺に気づいた生徒がクスクスと笑っていたり、小さな声で挨拶をしてくれたが、それら全てに手を振って応対した。
俺ってば超人気者だから困っちゃうよね。前にルームメイトにそう告げたら真顔で「バカじゃないの」と返されたけど。
後もう少しで辿り着く、その瞬間。教壇で名簿帳に視線を落としていた原チャンがふと顔を上げて教室内を見回す。
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