【一章】ここは薔薇の花園です

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「ーーー……バレてないと思ってるそこのバカ一匹。遅刻理由を述べろ。それから佐藤はどうしたか知っているものはいるか?」 「うげっ! 原チャン気づいてたの!?」 「先生は教室全体に目がついてるからな。当たり前だ。……で、遅刻理由は?」 「あー。えぇーっと……」 売店寄って菓子パン物色してました! なーんて言えるわけがない。冷や汗をだらだら流しながらそれらしい理由を考える。 『目覚まし時計が壊れていたんですよ~。いやあ、本当に参っちゃうな~』 ……ダメだ。これは一昨日に使った理由だ。しかも痛い拳骨も頂戴した記憶がある。 『おめかしに時間が掛かっちゃったの。許して、ダーリン?』 ……却下。笑いはとれるかもしれないが、この不良教師には通用しないだろう。絶対殺される。 『お婆さんが産気づいていて……。俺、そういうの放っておけないタイプなんすよ』 ……論外。全寮制のこの学園で産気づくババアとか居る筈ねえ。例え居たとしても不審者として通報まったなしだ。 怒られない、真っ当な理由。それでいてクラスの好感度も上がるような……。 「原チャン!」 「随分長いこと考えてたな……。よし、聞こうか」 「はいっ。俺、朝起きたらまず校歌を歌うんです」 「はあ?」 「いつもだったら一番だけ歌うんですけどね、今日はなんだか気分がよくって最後まで歌っちゃってました。しかも熱も入っていたみたいで何度も何度も歌っていて……。気づいたらこんな時間になってました! スンマセン!!」 嘘だけど。あははのはと空笑いしながら頭をかく。我ながらいい理由を考えついたものだ。校歌を朝から歌うとか学校大好きすぎんだろ、俺。 クラスメイトたちは苦笑いしたり、野次を飛ばしてくるが好感度は上々。 さてさて。担任様の好感度はどうですかね。 「……和田雛人(わだひなと)遅刻、と」 「ああああっ! なんでですかー!?」 「じゃあ、お前校歌歌えんのかよ」 「もっちろん!」 歌えませんが、なにか。 「ふーん。なら今歌ってみろ」 「え」 「毎朝歌ってるんだろ? ほら、はやく」 「うっ。えと、その」 「和田雛人、遅刻」 無情にも名簿帳に書き記す原チャンに、俺は涙目になりながら消してもらうために訴える。
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