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私は今、深い深い海に溺れている。苦しさはない。だって、自ら飛び込んだのだから。
愛する人を想って、想いの深さで溺れる…。これは、幸せの内だと思うのだけれど。他人から見れば、違うのだろうか。
ふと、目を開ける。隣を見れば、彼が優しく微笑んでくれる。
どうかした?
ううん、どうもしてないよ
私の返事を聞いて、そっか。とだけ呟いてまた彼は空を見上げる。
空は、宙を映して、濃紺に染まっていた。それを引き立てるのは、何億後年も離れたところに居る星たち。
こうして柔らかい草の絨毯に寝転がって空を眺めるのが、彼のお気に入りなのだ。今では、私のお気に入りでもあるけど。不思議で、心地よくて、それでいて神経が研ぎ澄まされたようになるこの感覚。大袈裟かも知れないけど、宇宙の神秘を感じる。
その状態で彼と手を繋ぐのが、何よりも好きだった。一番、彼を側に感じられるから。この広大な「世界」という物の中で、確かなものに触れているような気がするから。
また、目を閉じる。
また、海の中だ。
彼の手を握っているはずなのに、私はここでは一人だ。でも決して、独りではない。この海が、彼を想って出来た海だと知っているから。
私はそのまま、深く深く沈んでいった。
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