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夜の暗闇に激しい雨粒が重なって、一瞬誰だか分からない位、その人影はぼんやりと霞んで見えた。
近づいて初めて気が付いた。
ずぶぬれのシオンが、まるで捨て猫のように佇んでいた。
「シオン?!」
私は慌ててシオンを傘に入れた。
「――やあ」
「どうしたの?! 何してるの……こんな」
「俺さ、行くとこないんだわ」
「え?」
「あいつのとこ、出てきたんだ」
「……シオン、それって――」
「俺も別れてきた」
「――何で」
シオンは突然私を抱きしめた。
シオンが着ていた革ジャンは、雨に濡れてびしょびしょだった。
何十万もする、とっても大切な革ジャンだって言っていたのに、こんなに濡れたら革がダメになっちゃうのに......。
「シオン……革ジャンがダメになっちゃうよ」
「関係ねぇよ」
シオンはさらに私をきつく抱きしめた。
さしていた傘は、手からぽろり、とこぼれ落ち、私もシオンと同じようにずぶ濡れになっていく。
「帰るなよ。見合いなんてするなよ。俺の人生から居なくなるなよ」
「シオン、本気なの?」
「俺、もう遠慮しないから。お前のこと。ギリギリまで気付かないフリしてたんだ、俺バカだよ」
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