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冬馬とおやすみのキスをした3分後に、修吾とおやすみのキスをした。
その唇は昨日、シオンと熱いキスを交わしたばかり。
味噌ラーメンを食べた後に醤油ラーメンを食べてしまったみたいな口腔内の心地悪さに耐えきれず、帰宅してすぐさま浴室へ逃げ込んだ。
あまりに慌てて蛇口を捻りすぎたのか想定外に勢い良く放水されたシャワーのお湯がだらし無く開いた口の中で溢れて下品に零れ落ちていく。
顔を挙げ、鏡に映ったずぶ濡れの化け猫を見つめる。
お前、キライ。
お前はどこに向かっているの。
誰に向かっているの。
さっき冬馬と食べたアラビアータのパスタがワインと共に口からあがってきそうになった。
浴室から上がり、身体を拭いて、下着と部屋着を身につけた。
ふうっ、とひとつ息を吐く。
冷蔵庫の扉を開け4缶並んだビールをひとつ取り出した。
勢いよくフタを鳴らし、味気ないアルミ缶の感触が唇に当たる。
鼻腔に麦芽の匂いをツンと感じながら液体を一気に流し込んだ。
程よい苦味が私の喉を刺激して、胃の中を通過してゆく。
先程のワインより全然美味い、と思った。
ソファーに沈み込み、そのまま横になったらもう動けなくなった。
さっきは、マンションの前でいきなり連絡もなしで待ち伏せしていた修吾を見つけ、びっくりして心臓が止まるかと思った。
今日は出張だって言ってたのに。
マンションの手前で冬馬と別れて正解だった。
「麻里のこと、驚かせたくて」
修吾は、出張先から日帰りで逢いに来てくれたようだった。
きっとそのまま部屋に上がりたかったんだろうけど、私はそそくさと修吾にキスをして、疲れているからとか何とか言っていそいそと帰らせてしまった。
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