捨てる女

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土曜日の夜、落ち着いたフレンチレストランのディナーの席で、修吾に別れ話を切り出した。 「何だって?」 修吾の持つナイフとフォークが動きを止めた。 実家へ帰って見合い結婚をする予定だ、となるべく気持ちを込めずに淡々と告げたのが間違いだったのか、予想外に修吾は激情した。 自分が今までどれだけ私に貢いできたのかを延々語り、時に喉を詰まらせ嗚咽するふりをするのだ。 涙を流しながら、何と、今まで買い与えたバッグやアクセサリーを返せ、などと言うではないか。 私は驚愕した。 この男はこんなにも幼稚だったのか。 大人の男だと、安心しきっていた私の人を見る目もなんらつまらないものだったのか、と自分自身を情けなく感じた。 あんなに優しかった修吾が、目の前で鬼のような形相で私を罵倒している。 ただただ悲しかった。 修吾を傷つけ、鬼にしたのは私。 綺麗に別れられる、なんて私の独りよがりにすぎなかったのだ。 何も言えなかった。 ただ一言「ごめんなさい」と、それが精一杯だった。
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