捨てる女

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修吾との別れ話でかなりのダメージを受けた私は、今までのツケが回ってきたのだ、と自分を責めていた。 あと2回、こんな思いをしないといけない。 愛情がないわけではないのだ。 それぞれに想いはある。 けれど、修吾といざ別れて、気持ちを客観的に置いてみると、意外に想いは残っていないことに気付いた。 本当に修吾から罵倒された通り、私は修吾を都合の良い男にしていたのかもしれない。 いつものようにシャワーを浴びるずぶ濡れの化け猫が映るミラー越しの瞳を見つめながらそう考えていた。 今日の空模様のようにどんよりと曇ったその眼の中は、何も映ってはいないようにただ黒く、ひたすら黒く存在していた。 ――翌週の火曜日、いつものように冬馬とファミレスでハンバーグを食べた。 私は気が重かった。 運が悪く、今日の気候は強風を伴った雨だった。 窓に雨風が当たって、時々バリバリバリッと音がする。 漆黒の空に浮かない顔の私が重なって窓ガラスに映り、自分が死神のように見える。 「あのね、冬馬。もう、私が居なくても大丈夫だよ、ね」 「......どういう意味?」 冬馬はクルクルした瞳で聞き返す。 「実家に帰るんだ。お見合い、する」 クルクルお目々が左右に揺れて、わずかに潤んだ。 「結婚、するの?」 「うまくいけばね」 「ーーそっか」 一旦窓の外に目をやった冬馬は、その後ハンバーグを一口食べて、数回咀嚼した後、言った。 「麻里ちゃんも、もう結婚したい年頃だもんね」 「冬馬......」 「僕に時間費やしちゃダメだよね」 冬馬は、全部を理解したような表情をした。 「今までありがとう。幸せになってね」 天使のような笑顔でそう言った最後の冬馬は、大人だった。
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