捨てる女

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金曜日、BAR《スワロ》の扉を開け、いつものように一番奥のカウンターに座った。 「いらっしゃい」と言って、浅黒の肌で髪をワックスで軽くオールバックにしたシオンがいつものように微笑んだ。 「ベリーニ、だろ?」 「うん」 シオンはいつものカクテルを手際よく作り、いつものようにちょっとカッコをつけて私の前にそっとグラスを置く。 「今日、ちょっと早く上がれそうだから、待ってて」 「あ、うん。今日ね、シオンに話があるから」 「オッケー。じゃあ麻里ん家に行っていい?」 シオンは、私の重たい気分に全く気づいていないのか、軽く返事をした。 シオンの働く姿をいつもこのカウンターで見とれていた。 2年前、出会ったのもこのお店。 女友達と飲んでいて、隣のおじさんに絡まれたのを、シオンがやんわりと助けてくれた。 それ以来ずっと通い続けて、色んな話をしたり、相談に乗ってもらったりして、私の方が夢中になった。 だけど、シオンには同棲している彼女がいた。 私はシオンを諦めるために彼氏を作った。 でも、この店に通うことはやめられなかった。 私はなぜかシオンに何でも話せたし、シオンも私に何でも話してくれた。 付き合い始めてからも、お互いパートナーがいることは承知の上だったし、割り切った関係が2人の距離感をちょうどよく保っている気がした。 お互いに何も求めないし、失わない。
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