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「ごめんなさい」
私の弟はすぐ謝る。
「あーらら。別にいいよ!それより遅刻しちゃうでしょ!私が片づけとくから、早く食べな!」
結構うまく焼けたんだけど、落ちた玉子焼き食べさせるわけにはいかないもんね。
弟はしょんぼりと顔を俯けながらモソモソと食べた。
そこまで落ち込むことないでしょ!
早くしろって言ってんのにっ!もう!
「………お父さん、今日帰ってくるかな」
エプロンを脱いだ私に突然弟が問いかけた。口数の少ない弟にしては珍しいな。
「さあね。仕事なんだから、遅くても仕方ないよ」
最近はやけに遅いけど。
何日も帰らないことだって増えたし。
でも私が心配すると、弟まで不安になっちゃうもんね。
今は私がお母さんの代わりなんだから、がんばらなくちゃ!
「うん。でも、」
「あーほらほら!もう時間ないよ!残りのパンは歩きながら食べなさい!」
弟は時計を見て、やっと慌てだした。
パンをくわえて学ランに袖を通してボタンも閉めずに玄関へ向かった。
「あー、こらこらカバン!」
「あ、ごめん」
はあ、また謝った。
「いいから、急げ急げ!」
弟は扉に手をかけたまま、振り返って私を見つめた。
ん?どうしたんだろ、まだなんか忘れてるかな。
「あの、姉ちゃん。……ごめん」
「あんたねぇっ」
「誕生日、おめでとう」
扉が閉まってから少し経って、その言葉の意味に気がついた。
なんだ、いつもと様子がおかしいと思ったら、そういうことか。
私の顔まっすぐ見つめて、真剣に言うんだから、ビックリしちゃった。
かっこよくなったなあ。
どうしようスゴく感動しちゃった。
涙が、止まんないな。
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