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「ごめっ、ごめん姉ちゃんっ。ごめんなさい!」
私の弟はすぐ謝る。
「…………いいよ。私も悪い」
お父さんが出てってから、生活苦しくなっちゃったもんね。
欲しいものあっても、言えなかったんだよね。
弟は半泣きで私を見上げた。
「あのねー、君この子の保護者でしょ?もっと厳しく叱ってくれなきゃ困るよ」
店長さんが腕を組んで私を見下ろした。
「すみません、本当に」
「たった一つの商品でもね!遊びで盗まれちゃ困るんだよ!うちで働いてる子達の給料はどうしてくれるわけ!?」
目の前の机をバンバン叩く店長さんに、私はずっと言い返したくて、でも言い返せなくて。
頭を下げたまま、歯を食いしばって耐え続けた。
「もういい、帰ってくれ。二度とこんなことするなよ?」
「はい、すみませんでした!」
パイプイスから立ち上がった弟の頭を、無理やり下げさせて、店長さんと目を合わせないように、下を向きながら店を出た。最後の声は震えてたかも。
「……姉ちゃん、ごめ」
「ごめんね」
「え、なんで」
「ごめんね、ごめん。ごめんね」
悔しい!
あんたはそんな、ただの遊びで盗むような子じゃないのに!
私が、もっと稼げたら、もっと!
「違うっ、違うよ姉ちゃん。ごめっ、俺が謝らなっ、いとっ」
弟がしゃくりあげながら言って、私はそんな弟を抱きしめた。
道の真ん中で、二人して泣き崩れた。
好きな女の子がいるんでしょ。
安物のイヤリングなんか盗もうとして。
男の子だもんね。
もっと、がんばらなくちゃ。
せめて千円くらい。お小遣い出してあげたいな。
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