50人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしたんですか…!?」
日和が駆けつけると、プリンを手にする真希と、椅子にふんぞり返る冴月がいた。
「聞いてよ、犬養さんがこのプリンくれないのよ!」
「てめぇだって晴明の差し入れで同じのもらったじゃねぇか」
「犬養さんいっつも狛井かアタシに自分の分くれるじゃないですか!?
ずっとここの冷蔵庫入れてるし、もうすぐ消費期限過ぎますよ?」
「気が変わったんだよ。とにかくそれは駄目だ。
もう帰るだけなら、そこの書類の束棚に上げとけ」
「ケチー!」
子供のようにベッと舌を出したかと思うと、背伸びをして指示通り書類を棚に置き、真希はプリンを机に置いて出ていってしまった。
「あ…あの…」
「あー…騒がしたな」
日和と冴月…休憩室は2人だけになった。
「………」
「………」
お互い口を開かず、沈黙が続く。その中の音といえば、カタカタと会計中の冴月が押す電卓のボタン、それと時計の針が進む音だけだ。
どうしたら良いか…そう思いながら、日和は会計を続ける冴月を見つめる。
電卓を見つめる鋭い視線、堀の深い顔、電卓を叩く長く男らしい指…そして机の下から見える長い足。
(年と怖い顔じゃなかったら、モデルみたいだなぁ…)
無言で見つめているせいか、冴月が居心地悪そうに顔を上げる。
「あーと…何か付いてるか?」
「あっ!あああちっ違うんです!すいません!!」
「いや怒ってる訳じゃねぇんだ。
その、なんて話せば良いのか分かねぇだが…そりゃ若い女の子からしたら、こんなオヤジなんか怖ぇよな…」
先程の勢いは無く、ボソボソと呟く。あー…やらその…やら言うだけで言葉が繋がらず、本当に言葉を探しているようだ。
(何か…犬みたい…)
率直な冴月のイメージはそれだった。
訪問者を威嚇して吠えると飼い主から叱られ、しゅんと耳を垂らす大型犬のような…そんなイメージだ。
(どうしよ…少し可愛い…)
愛犬大好きだった日和は、不覚にも犬のような反応の冴月を可愛いらしく感じる。
最初のコメントを投稿しよう!