彼岸花

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「どうしたんですか…!?」 日和が駆けつけると、プリンを手にする真希と、椅子にふんぞり返る冴月がいた。 「聞いてよ、犬養さんがこのプリンくれないのよ!」 「てめぇだって晴明の差し入れで同じのもらったじゃねぇか」 「犬養さんいっつも狛井かアタシに自分の分くれるじゃないですか!? ずっとここの冷蔵庫入れてるし、もうすぐ消費期限過ぎますよ?」 「気が変わったんだよ。とにかくそれは駄目だ。 もう帰るだけなら、そこの書類の束棚に上げとけ」 「ケチー!」 子供のようにベッと舌を出したかと思うと、背伸びをして指示通り書類を棚に置き、真希はプリンを机に置いて出ていってしまった。 「あ…あの…」 「あー…騒がしたな」 日和と冴月…休憩室は2人だけになった。 「………」 「………」 お互い口を開かず、沈黙が続く。その中の音といえば、カタカタと会計中の冴月が押す電卓のボタン、それと時計の針が進む音だけだ。 どうしたら良いか…そう思いながら、日和は会計を続ける冴月を見つめる。 電卓を見つめる鋭い視線、堀の深い顔、電卓を叩く長く男らしい指…そして机の下から見える長い足。 (年と怖い顔じゃなかったら、モデルみたいだなぁ…) 無言で見つめているせいか、冴月が居心地悪そうに顔を上げる。 「あーと…何か付いてるか?」 「あっ!あああちっ違うんです!すいません!!」 「いや怒ってる訳じゃねぇんだ。 その、なんて話せば良いのか分かねぇだが…そりゃ若い女の子からしたら、こんなオヤジなんか怖ぇよな…」 先程の勢いは無く、ボソボソと呟く。あー…やらその…やら言うだけで言葉が繋がらず、本当に言葉を探しているようだ。 (何か…犬みたい…) 率直な冴月のイメージはそれだった。 訪問者を威嚇して吠えると飼い主から叱られ、しゅんと耳を垂らす大型犬のような…そんなイメージだ。 (どうしよ…少し可愛い…) 愛犬大好きだった日和は、不覚にも犬のような反応の冴月を可愛いらしく感じる。
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