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バサバサ…大量の書類が音を立て床に落ちる。
「危ねぇな…」
視界を遮断された日和の頭上から、ふぅ…と冴月の声が聞こえる。
「野原のヤロー…しっかり置けよ全く…」
壁に肘を付き、冴月の文句と溜め息が出る。
「あ、あの……!」
「おう?」
冴月が視線を下ろすと、自分と壁に挟まれ固まる日和がいた。
「……ん?」
冴月も固まる。
「わ、悪い!」
慌てて冴月が離れると、胸を抑え深呼吸する日和。
「咄嗟だったからさ、本当悪いな…!」
「だ、大丈夫です…でも…」
呼吸を整えた日和は、冴月を見つめる。
「さっき…日和って…」
やっと呼んだのも名字だった冴月が、咄嗟に名前を叫んだことは日和も分かった。初対面の冴月が咄嗟のことですぐ名前を呼ぶのか?
「あっ…と、それは…!」
「大好きなご主人の名前よ。危ないときは叫んじゃうんじゃない?」
休憩室の入口から、ひょっこりと宇佐美が顔を出す。
「宇佐美さん!?」
「げっ、兎妖怪……!」
「あらぁ~誰が兎妖怪よ、サツキぃい…?」
宇佐美は微笑みながらドカドカと大股で近付くと、冴月の腹部にストレートフックを決める。
のたうち回る冴月を踏み、宇佐美は日和に微笑む。
「元飼い犬に何もされなかった、日和ちゃん?」
「あの…話が分かりません……」
日和は再度フリーズ。
「…あの、元飼い犬って……」
「そのままの意味よ。この男は、日和ちゃんが大好きだった冴月号の生まれ変わりよ」
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