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「いや嘘だ」
暫くの沈黙後、日和がやっと喋ったのはそれだった。
「あら、本当よ?」
「いやいやいや!普通そんなこと言われて信じられないでしょ!?
冴月が犬養さんな訳ないじゃないですか!?」
日和が慌てて棚の陰に隠れる。
初対面の強面の男が愛犬の生まれ変わり…そんなことを信じられるはずがない。むしろ昔の愛犬のことを知られていることが恐ろしい。
「いやね~疑われてるわよサツキ」
「宇佐美てめぇ……!」
「犬養さん、その人何で犬のこと知ってるんですか…!?スパイかストーカー!?
まさか犬養さんもスパイ!?」
「いや違ぇよ!!そんなんじゃねぇよ!!」
怯える小動物と化した日和に慌てて誤解を解こうとする冴月だが、焼け石に水…いや焚き火に薪を加えるように状況悪化。
「すいませんすいません!!気に触ることをしたならすいません!!」
「だから誤解だって…!」
「ごめんなさいぃぃ!!」
「だから…話を聞けっ日和!!」
低いドスの効いた声で冴月が怒鳴ると、日和は涙目でピタリと止まる。
「…ご…ごめんなさい…」
「…あー…違うんだ…!怒ってるんじゃないんだ…!」
冴月は苛立たしくガシガシ首を掻く。
「本当はこんなんじゃないんだ…お前に会うつもりもなかった…
でも、お前がここに来て驚いたし、相変わらずホワンッホワンしてて心配になるし…だぁーくそっ!」
ガシガシ…何度も首を掻き言葉を探す冴月。
『ウォンウォン』
「…鳴き声」
涙目の日和は冴月を見つめる。
「あっ?」
「ホワンッホワンって…冴月が変な鳴き声をしたのと似てる…」
いつも日和を笑顔にした、魔法の鳴き声をした犬。それが目の前の冴月と重なる。
「…そうだな。泣いてるお前にいつもこう言ってからかうと、必ず笑ってたな」
苛立つ冴月が、小さく、懐かしく笑う。
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