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日和の中の、奥底にあった記憶が流れる。
月明かりしか光の無い夜。それに照らされ輝く花畑の中に、泥だらけの幼い日和と冴月だけが転がっている。
頭上には険しい崖…そこから落ちたのだろうか。
日和は傍の冴月を揺り起こそうとすると、濡れる感覚を手に感じる。月明かりに照らされ、自身の小さな手を赤い血が濡らしている。
『冴月…?』
『キューン…』
首元の毛を真っ赤にし、虫の息である冴月が、精一杯の力で瞼を開け日和を見つめる。多くの血で花を赤く染め、それさえ苦しいはずなのに…
『冴月…冴月!!』
誰もいない地で、小さな少女1人が出来ることなど犬を抱きしめ大声で名を呼ぶことしかない。日和を探し見つけた警察が到着したときには、赤く染まり冷たく固まった犬の亡骸を抱きしめる日和の姿がそこにあった。
「…どうして…冴月は死んだの…?」
知らない土地で、目の前で死んだ愛犬。何故死んだのか…その理由だけが分からない。
戸惑う日和に、目の前の愛犬だったという男は戸惑い、そして悲しげな目で無言で見つめるしかなかった。
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