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帰宅した日和は、ソファーに置かれたクッションに顔を埋めていた。
「もう訳分からない。嫌だーもう何なのよ…」
「怖っ。何呻いてるのよ?」
濡れた長い髪を拭きながら、姉・赤峰 渚が揺り起こす。
「お姉ちゃん…」
「初バイトから帰ったと思ったら、ずっとそうしてるわよ。何かあった?」
「んー…あったはあったけど…どちらかと言うと私が失礼した感じ…」
「早速やらかしたの?」
日和は頷くしかない。
冴月の悲しげな目に耐えきれなかった日和は、脱兎の如く『ARISU』を飛び出し帰って来たのだ。
愛犬が50歳の男として生き返ったなど言われただけでも頭が追い付かない。そんな中、あんなに大好きな愛犬が死んだ理由が思い出せないということが判明したのだ。
冴月のことを忘れたことはない。ただ、冴月が亡くなったときだけは様々な思い出達の奥底に埋もれてしまい、思い出せなかった。
今も必死に思い出だそうとするが、何も思い出せないのだ。
「お姉ちゃんさ、冴月のこと覚えてる?」
「冴月?昔日和がべったりだったシェパード?」
「うん。バイト先に同じ名前の人がいてね、冴月のこと思い出したの」
ふーん…と、興味無いらしく、渚はココアを2つ入れ日和に渡す。
「サツキって、よくある名前じゃない?」
「女の人っぽいでしょ?その人男なんだよ。しかも漢字も同じなんだよ」
「…そう」
「でね…お姉ちゃんは、冴月が何で死んだか覚えてる?」
「………」
何故か暗い顔になる渚。
「…小さい日和と冴月が散歩で遠くまで行って、迷子の果てに崖から落ちたこと?
幸いアンタは擦り傷で済んだけど、冴月は落ちる途中で枝か何かで首の動脈切れて出血多量で死んじゃったじゃん」
「でも…あそこって家より大分遠いとこでしょ?何で私あんなとこに…」
「日和」
飲んでいたココアを置き、渚は冷たい視線で日和を黙らせる。
「…アンタ、鍵ちゃんと片付けた?」
「えっ?」
「玄関に鍵掛けるスタンドあるでしょ?さっき掛かってなかったわよ。
帰ったのも一緒だったから私が開けたけど」
「あっ…ごめん、鞄に入れっぱなしにしてて…」
話題が変わり、慌てて鞄を開ける日和。
「あれ?無い…」
「嘘ぉ…道に落としたオチじゃないわよね?」
冷たい視線は無く、もぅ…と溜め息を付くと、渚のスマホが着信を知らす音楽が鳴る。
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