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「ぐすっ……!」
住宅街のとある一軒家。その庭の隅からすすり泣く声が聞こえる。
ランドセルを居間に置き捨て、まるで隠れるように、少女がしゃがみ込み声を押し殺していた。
「ワン」
庭にある犬小屋から、一鳴きしてジャーマンシェパードが出てくる。少女のすすり泣きがうるさく聞こえるのか、迷惑そうに少女を見つめる。
「ごめんね、冴月(さつき)。うるさかった?」
少女はゴシゴシ目を擦るが、涙は止まらない。
「………」
冴月と呼ばれた犬は、少女を無言で見つめる。暫くすると、冴月はまるで溜め息をつくようにして少女に近寄り傍に座る。
「ウォンウォン」
「…ふふっ」
突然冴月が可笑しな鳴き方をすると、少女は笑い出す。
少女が泣いていると、決まって冴月はこの鳴き声を出す。この家に来てから、何故か冴月は少女に対して鳴くので、少女はこの鳴き声を気に入っていた。まるで自分を励ますようで、気付くといつも涙は止まっている。
「…あのね、学校でクラスの男子がいじめるの。ドッチボールとか鬼ごっことかいつも私を狙うんだよ。亀って言うし」
「………」
「それでね、冴月のこと『キョーケン』って言うんだよ。冴月はキョーケンじゃなくて警察犬だったから賢いのに…!
いつも嫌だけど、冴月のことはもっと嫌で…その子押して仕返ししたら、その子に押されて転けた…」
見ると少女の膝に擦り傷が痛々しくある。
ポンッ…
少女の手に、冴月が前足を乗せる。
「…えへへ。ありがとう冴月」
面倒そうな、しかし真っ直ぐ少女を見つめる犬。少女の手に乗せる前足の温もりが、冴月なりの慰め方だった。
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