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12年後、4月。
「今日からバイトだよね、日和(ひな)?」
「うん。大学早く終わるし、今日行くよ」
大学の食堂にて、赤峰 日和は友人の坂本 奈々子と昼食中だった。
セミロングの髪先を弄り、日和は手鏡で何度も確認する。
「可笑しくないかな…?」
「日和は自分に自信なさ過ぎ。元々可愛いんだから自信持てば良いのに!
バイトだって、好きな花の仕事なら自信付くかもって言ってたじゃん」
「そうだけど…」
奈々子に言われ、しゅんとする日和。今どきのガーリーなコーデで顔立ちの整った彼女は、端から見ればモデルと思われるそうだが、日和は自分に自信がない。
小さい頃から大人しく引っ込み思案な彼女は、いつも言いたいことを伝えきれず、いじめられたり友達と喧嘩をしたらいつも泣いていた。
大好きだった愛犬がいたときは、愛犬の存在のおかげで自信を持つことが出来るようになったが、12年前の話だ。大学を卒業すれば社会は甘くない。
自信を持つことを決めた日和は、大学から離れた実家通いから、同じ地区内の姉の住むアパートに引っ越した。そして近所の花屋でバイトをすることにしたのだ。
「てかさ、日和の飼ってた犬って警察犬だったんだよね?」
サンドイッチを食べながら奈々子が尋ねる。
「そうだよ。お父さんの友達が警察犬の訓練士やってて、『冴月号は俺の傑作で頼もしい相棒だ』っていつも自慢してた」
「冴月号?」
「犬の名前だよ。冴える月って書いてさつきって読むの。『寒い夜空に冴える月のように、悲しむ人達に希望を見せろ』って意味らしいよ」
「へぇ~。そんな犬が何で日和の飼い犬に?」
「犯人を追い詰めたとき怪我したせいで現場復帰が難しかったんだって。まだ若いし引退して幸せに過ごして欲しいからって里親探しに出して、私達もその人から譲渡会に誘われたの。
そのとき私が大型犬飼いたいって駄々こねて冴月を飼ったの」
日和は懐かしそうに語る。まだ幼さの残る顔は花が咲いたように微笑む。
「…なら、尚更バイト頑張りなさい。そんな顔出来るんだから、いつまでもウジウジしてないで可愛い顔で自信持ちなさいよ!」
「うん!頑張る!」
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