ペチュニア

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~~~~~ 『貴方は、お父さんのように立派になるのよ』 とうに顔を忘れた母が、会ったことのない父のようになれと言っていた。 『良くやった…!お前は優秀な警察犬だ!』 親代わりの訓練士は、的確に指示に従う俺を褒めた。 凶器を持ち逃げる犯人に噛み付き、年の離れた兄弟と行方不明者を捜索して見つけたこともある。 決められた生き方を、決められた通りにこなした。そうしたら皆が俺を認めた。その生き方しか知らなかった。 『…お前は、もう十分頑張ったよ…』 現場で怪我をした。怪我が治っても、もう以前の俺はいない。 そんな俺に、訓練士はそう言った。 知らない施設に入れられ、知らない犬達と過ごすことになった。 捨てられたと思った。訓練士も、助けに行かないといけない現場も何処にも無い。 絶望し威嚇しかしない俺が言われる言葉は『凄い』『良くやった』ではなく、『怖い』『可愛くない』だった。 ある日、施設に色々な人間達が来た。 『可愛いね』と色々な犬を撫でる。中には飼い主が決まったと喜ぶ犬もいた。 人間達は俺を怖がり近寄らない。元々無愛想な上に、警察犬として生きた俺にビビってるらしい。 警察犬に復帰出来ない、愛玩犬としても駄目な俺…俺の生きる目的ってなんだ? 施設の脇に咲いた、赤い花が視界に入った。 風で揺れ、まるで俺を馬鹿にしてるみたいなその花に、何だか一言言ってやりたくなった。 『ホワンッホワンな花のくせに…』 『可愛い…!』 それが、俺を変えた太陽との出会いだった…
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