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大学が終わり、日和は2階立ての建物の前にいた。1階は色とりどりの花が並び、2階は只の部屋だ。
日和は1階の花屋『ARISU』の前で固まっていた。
(間違ってない…よね…?『ARISU』であってるし…)
『ARISU』店長と約束した時間通りに目的地に到着していた日和だったが、例の自信の無さで中に入れていなかった。
「あれっ?赤峰さん?」
日和がオドオドしていると、店から鉢植えを抱える年配の男性が出てきた。
「はいぃ!!」
突然声を掛けられ、日和は文字通り飛び上がる。
「あれぇ、驚かせた?大丈夫?」
「だ、大丈夫です…!
も、もしかして店長の土田さん…ですか?」
「そうだよ~。今日から宜しくね~」
あははと呑気に笑いながら、土田は軍手の片方を外し握手する。
「履歴書持って来たときは娘とデートする日だったんだよ。映画とか買い物だけなのに、娘とのデートだから張りきってスーツ着てたし、印象違うかもね?」
確かに、呑気な話し方は一緒だが、日和が履歴書を持って行ったときはスーツを着て身なりも整っていた。園芸用の服装と印象は違う。
鉢植えを下ろすと、土田は白髪混じりの頭を掻く。
「ちょっと待っててね。副店長呼んで来るよ」
「い、いえ…!そんなわざわざ…!」
「いいのいいの。実は新しい子が入るって言ってなかったから、紹介がてら報告するし」
「えっ…?」
職場に新しい人間が入ることを伝えていなかったことを、そんな簡単に考えるのか…日和はこの店を選んだことを少し後悔した。
「“サツキ”ちゃーん!ちょっと来てー!」
「犬養さんなら、奥で新しい花出荷する金計算してますよ」
土田が叫ぶと、眼鏡を掛けた冴えない男が現れた。
「ならサツキちゃん呼んで来て、鳩崎くん」
「えっー!嫌ですよ、会計中の犬養さんって怖いんですよ!」
「もっと怖くなる前だから大丈夫ー」
「また何かしたんですか店長!?とばっちり喰らうの僕達ですけど!」
「はい行ってらっしゃーい」
バシリと土田に猫背を叩かれ、鳩崎は文句を言いながら店の奥に消えた。
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