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「『犬猿の仲』と言えば余りに有名な言葉だけれど、『犬と猫』という言葉にも不仲を表す意味があるという事は、意外にも知られていない。んー……。でも何でなんだろ。どっちも人気者で、有名な動物なんだけどね?」  先輩は笑った。 「有名だからこそ、かな? あっ、そもそも西洋の言葉だから馴染みが薄いとか。向こうじゃ犬と猫は仲が悪いって相場で決まってるけれど、犬と猫を飼っている人も今は珍しくないから、そういう仲よく暮らしてる様子を取り上げられる度、世間のイメージが塗り替えられて来たのかもしれないね。今は猫ブームだし。インスタとかツイッター見てても、何だかんだ猫を見る機会があるぐらい。もしこれが猫側の情報操作なら、騙されている人間は本当に滑稽だと、懲りないと、思っちゃうけど。猫の百鬼(ひゃっき)という側の、彼らによる操作なら。九鬼くん。動物の姿をした百鬼にも色々あるけれど、化かしの御三家、狐、狸、(てん)は、その余りの高名かつ危険さ故に、対抗策は昔から練られてきてるし、何なら少しやり尽くした感もあるぐらいだけれど、昔からいると馴染まれておきながら、意外にも対策が追い付いていない獣の百鬼とは、猫だよね。未知数という意味では、(ぬえ)にも化ける貂よりも恐ろしい。それは彼らが余りにもしぶとく、長命だから。全ての猫に当てはまる訳では無いけれど、百鬼と化した猫は、魂を九つ持つ。よく眠るのもマイペースなのも、生態じゃなくて退屈だから。一回死んで、まだあと九回も人生があるなんて分かっちゃうと、暇で仕方無くなっちゃうでしょ? 既知が増していくだけの世界を、今度は中々死ななくなった身体であと九回。彼らは百鬼と化すと、元の猫という姿を完全に超越する。生前を忘れる。百鬼と化した、謂れ以外。化けて出てしまうなんて大抵がマイナス的な原因だから、恨み辛みだけを本当に。百鬼的に見ると犬や猫って、本当に厄介なんだよ。厄介で、可哀相で、申し訳無い。人間と距離が近いから。私達と近いという事は、自然界では起きようの無い、人間の都合に巻き込まれやすいという事で、それは化けて出やすいという事にまず繋がる。犬と猫の怪談とは、本当に多い。それだけ私達に、振り回されて来た歴史があるから。今は禁術として封じられてる、犬神(いぬがみ)の作り方とかね。……まあだから、勝手に一人で死んだ私が言えた事じゃないんだけれど、九鬼くん。
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