哂うヤマモトヒロシ

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人間の脳は、爬虫類脳、動物脳、人間脳という三つの脳から構成されており、今からこのラボでの施術により、人間の危険回避を司る爬虫類脳を増やし、感情を司る動物脳を最小限に抑え、人間脳の発達、およびクラウドとの連携を可能にする、チップを脳に埋め込む。 脳の手術といえば、失敗したらという不安もあるが、執刀医がヤマモトヒロシなら心配はいらない。 彼らは絶対に失敗しない。一昔前のドラマで女医が「私絶対に失敗しませんから」 などというセリフは嘘である。人間である以上、必ず失敗はある。 俺は覚悟を決めて、手術台に横たわると、麻酔が効いてきたのかそれからはもう意識がない。 これで俺も明日からヤマモトヒロシだ。 総理官邸では、ヤマモトヒロシが上等な革張りの椅子に腰かけ、首相側近であるヤマモトヒロシからデータを受け取っていた。 「我が国のヤマモトヒロシ率は確実に増えています。シリアルナンバーによる管理も完璧です。」 首相のヤマモトヒロシは感情のない目でそれに目を通して、抑揚のない声で答える。 「我々が、この国に上陸してヤマモトヒロシ一号を送り出してはや40年。そろそろ体の方も進化を遂げた方がよさそうだな。不滅再生細胞の研究を急がないとな。」 そう言うと、口から二本に割れた細い舌をチロチロとさせた。
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