第1章

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 俺は、草むらの茂みに隠れていた。息を殺しながら。  あの化け物に追われて、どれだけの時間が過ぎたのだろうか?体力的にも精神的にも、限界が近づいてきている。  しかし、俺には…。いや、俺達には逃げるしか手段はなかった。戦うという選択肢を与えてはくれない化け物だ。ただ見つからないように隠れるか、捕まらにように逃げるしかない。俺たちなんて、所詮そんなちっぽけな生き物なのだから。  あれは、ほんの数十分前の出来事だった。  俺は親友の貴広と一緒に、化け物から逃れるために倉庫裏に隠れていた。この倉庫裏にいれば、俺たちは見つかることはないと思っていた。だが今回は違った。突然化け物は俺たちの前に姿を現した。    俺たちは油断していた。見つかるわけはないと高を括っていたからだ。  その油断が命取りになってしまった。俺と貴広は化け物の発見に遅れた。発見した時には、もう奴は目の前に立っていた。  俺は貴広に「逃げるぞ」と言って、その場から走って逃げた。しかし貴広は、俺より化け物の発見が遅く2・3歩ほど出遅れた。  俺が逃げながら後ろを振り返ったときには、貴広は化け物に捕まっていた。そして、みるみる貴広が化け物になっていった。  しかし俺は、自分が助かりたい一心で、そのままスピードを緩めず、全速力で逃げた。そして今、この草むらの茂みに身を隠れている。  くそっ、俺はもっと何か出来なかったのか?貴広を助けるために。俺はそんな後悔が頭の中でぐるぐる回っていた。  しかし、それと同時に、俺は逃げるしか選択肢はなかった。あの場面で貴広を助けることは不可能だ。そんな言い訳をしながら、自分が助かったことに安堵していた。      そして俺が茂みに隠れてから、ある程度時間が経った。どうやら俺は、今の段階では化け物に見つかっていない。うまく隠れることができている。  俺は安心して、ゆっくりとため息を吐いた。  その瞬間、俺の後方で草が擦れる音がした。    俺は振り向き、その草の音の原因を確かめた。その方向には一人の人影がしゃがんで近づいてきていた。  俺はそいつだけに聞こえるような小さな声で言った。「誰だ?」と。  「俺だ。白井だ」  近づいてきた男は、こいつもまた俺にだけ聞こえる小さな声で答えた。  俺の後方から近づいてきたのは、仲間の白井だった。
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