絆なんて

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“絆”なんて、そんな美しいものは、この世には存在しないんだと思う。 例えば、アタシがバイトをしているこの喫茶店。 ここにはたくさんのお客さんがいるわけだけれど、カウンターでひとりコーヒーを啜るあの男性は、今まで“心友”と呼んでいた人と一緒に来ていたけれど、たった一言の言葉でその仲は崩れてしまったらしい。 あと、真ん中のテーブル席に座っているカップルのあの女性。あれで何人目だろう。連れてくる男性は1ヶ月周期で変わる。 それから、この喫茶店のマスター兼店長。この人はもう50代になるけれど、家族というものを知らないらしい。物心ついた時にはそういう施設にいて、そのまま成長して、今に至るんだと。 そして、こんな風に客観的に見ているアタシ自身も“絆”なんてものは持っていないんだと思う。 友達は卒業してから音沙汰無しだし、お母さんは怒ってばっかりだし、お父さんは無関心だし。 最初で最後の告白は振られて終わったし。 だから、もし、“絆”の強さで競う競技があったとするなら、アタシは出場すらできないと思う。 仮に出場できたとしても、こんな感じることのできない“絆”なんて、アタシは要らないな。だから、きっと棄権するだろうな。
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