〈憤怒〉の境界線

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 教会の習慣である朝の祈りが終わると、礼拝堂はやにわに騒がしくなった。  参加者たちが口々に神父への礼を述べる。瞳を潤ませ、弾んだ声音で。  神の教えを優しく説く、若く見目麗しい『神父さま』は、皆の人気者だった。  しばらくすると、礼拝堂内はようやく静けさを取り戻した。  忘れ物がないか見て回る青年神父の足音がよく響く。  ふと、足が止まった。  男性がひとり、隅のベンチに座っている。  一向に立ち去る気配がなく、ひたすら項垂れ、膝の上で拳を作っていた。 「どうかされましたか?」  神父は男性に声をかけた。  男性は雷に打たれたようにさっと面を上げた。 「あ……神父さま」 「ご気分がすぐれないのでしたら、奥で休まれますか」 「い、いえ。大丈夫、です」  その返事が条件反射の嘘であることは明白だった。顔色が悪く、声も弱々しい。 「そうですか」  神父は嘘を追及せず、眼をーー黒縁眼鏡の奥にある、少し虹彩の色が薄い双眸を男性に向けた。  男性には、その眼がとても恐ろしいものに思えた。  だが、彼はその眼に突き動かされるようにして重い口を開いた。 「神父さま、……告解を、していただけませんか……」
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