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その店は、商店街の一角にある。
蔦がはっている壁に、古いガラス戸。
看板には『野路菊堂』と書いてある。
その名の通り、ガラス戸の隅には野路菊の絵が描かれていた。
店の奥は和室になっていて、そこで野路菊堂の先代である大治郎がくつろいでいた。
「おじいちゃん、父さんからハガキが来てました」
大治郎の孫・正大が和室に入って来て、大治郎にハガキを渡す。
「またこれだけか」
「送って来るだけ良いんじゃないですか」
ハガキには『自分が元気にしていること』『体に気をつけて暮らしてほしいこと』『子どもたちのことをよろしく』という内容が書かれていた。
いつもと変わらぬその便りに大治郎はハガキにさっと目を通すと、後ろの棚にハガキを直した。
父親からの便りと言っても特に気になることはないのか、正大はそれを見届けるとお茶を入れる用意を始める。
大治郎がふと店の扉の方へ目をやると、不安そうにしている女の子と少し離れた所にその母親と思われる女性が立っていた。
「ん?お客さんかな・・・・・・」
その大治郎の声に正大は立ち上がり親子に近づいていく。
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