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銀次が受け取ったことで満足したようにアリスは頷き、
「じゃあ、ちゃんと食べなさいよ!」
偉そうにそう言い残し、来たときと同じぐらいの速さで立ち去ろうとする。
その背中をあっけにとられながら見つめていると、
「言っとくけど!」
アリスはぐるっと振り返った。
「義理だからね!」
「……はぁ」
「っていうか寒いんだからこんなとこ居ないで、中はいりなさいよ! 風邪引くわよ! ばっかじゃないの!?」
怒鳴りつけるようにそういうと、銀次の返事もまたずに、またずんずんと屋敷の方へ戻って行った。
なんなんだか。
首を傾げながら、ベンチに再び腰をおろす。
アリスお嬢様本当、意味わかんないなー。
思いながら包みをあける。
可愛らしい小さなアルミのカップに入ったチョコがいくつか並んでいた。上には色鮮やかなカラースプレーがかけられている。典型的な子どもの作ったチョコレートになんだか微笑ましくなる。
それから、中学の時にクラスの女子にもらったチョコを思い返して、懐かしい気分になったりして。
偉そうにしているけれども、彼女はまだ十四歳。まだまだ子どもなのだ。
四歳年上の余裕から、そんなことを思いながらチョコを一つ口に含む。
「……かたっ」
異様に固かった。
これはあれか、ただチョコを溶かして固め直しただけのタイプのやつか。そんなことを思いながらも、口の中で噛み砕きながら溶かしていく。なんか微妙に不味い。成分が分離しているっていうか、なんていうか、そのままチョコ食べた方がきっと美味しいんだろうな、なんてことも思ってしまうが、せっかくのアリスお嬢様が作ってくれたチョコレートだ。残す訳にはいかない。
アリスの父親である鈴間屋拓郎に恩義を感じている白藤銀次は、妙なところで律儀であった。
そうして、白藤銀次がアリスからのチョコレートを受け取ったのはこれがはじめてであった。
ゆえに、
「銀次さんっ!」
妙に慌てたようすで、メイドの優里が走りよってきたときには、銀次は全てのチョコレートを食べたところであった。
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