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「優里さん?」
優里は、銀次の膝の上におかれた、空の箱を見て軽く悲鳴をあげる。
「え、あの?」
普段クールを通りこして氷のような彼女の、らしくない態度になにが起きたのかと思っていると、
「アリスお嬢様のチョコレート、召し上がってしまったんですね……」
低いトーンで言われた。
はっ、しまった。この異様にお嬢様が大好きメイドにバレちゃいけないタイプの出来事だったんだろうか、なんて思っていると、
「行きますよ」
ぐっと、乱暴に右手をとられる。
「あ、あの、優里さん」
なにか弁明しようと口をひらきかけたのを、
「ああ、ごめんなさい」
まさかの謝罪が遮った。
あの優里さんが、謝罪!?
「もっとはやく、今朝にでも忠告しておくべきでした。優里としたことが、迂闊でした。本当にごめんなさい」
優里にひきずられるようにして歩きながら、
「あの、どうしたんですか?」
「はやく、お医者様のところに行きましょう。はやめが肝心です」
「あの?」
「アリスお嬢様はとても可愛らしくて聡明で素晴らしいお方で優里は大好きですし、優里などがアリスお嬢様についてケチをつけるようなこと、身の程知らずにも程がありますが、それでも言わせて頂きますと」
優里はそこで立ち止まると、重苦しくひとこと告げた。
「お料理がとても苦手です」
あ、なんか全部わかったかも。
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