9人が本棚に入れています
本棚に追加
駒井靖夫は集合場所である町外れの廃墟に着いた。
日が沈んだ後の無機質なコンクリートは、異様さを増してお化けが出てもおかしくない雰囲気だった。
「もう戻ってたのか」
埃が舞う暗い場所は、男前をより一層輝かせている様だった。
「俺は仕事出来る男なんでね。
そっちはどうだった? 」
相変わらずの笑顔。
「四十はハケたけど、残りの十人はやっぱりダメだった」
笑顔の前には、壊れてはいるが平らなテーブルが置かれていた。
「まぁ、それで上等だ」
日光が無くなった暗い廃墟に、携帯電話の光だけが明るく光る。
「さっさと分けちまおうぜ」
二人はセカンドバッグと鞄から、無造作に入れられた様々な札束を取り出しテーブルの上に並べた。
新札や皺々の一万円札から、汚れた千円札や小銭まで混じっていた。
「ここまでして欲しいもんかね」
お金に人生を垣間見ながら、男前が三本の指で器用に数え、駒井靖夫が十万円単位を輪ゴムで括る。
括り終えた札束を、
「先ずはあんたの上に払う分の二百万、そしておれの魔法の粉の分の二十万」
必要経費だけを取り除き、
「残りが百十五万ずつだな」
男前がセカンドバッグと鞄に再び入れていく。
入れ終わったところで、
「誰だ?こんな時に…… 」
駒井靖夫の携帯電話が鳴った。
「残ってた十人の内の誰かがお金用意出来たんじゃない? 」
男前が「電話取れば? 」と促す。
ディスプレイには知らない番号が表示されている。
訝しみながらボタンを押して耳に当て、唯一の光が廃墟の中から消えた。
「……もしもし」
『駒井靖夫さんですね』
聞き覚えのない声が知るはずのない本名を告げ、
「……誰だ? 」
本能が危機を告げていた。
最初のコメントを投稿しよう!