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駒井靖夫はいつものように満員電車に駆け込んだ。
昨日とは時間と車両を若干ズラした。
相変わらずのすし詰め状態。
遠くの方にはよく見る顔の男。
その男の前には可愛らしい女子高生、狭い隙間で懸命に体をくねらせ、触られている事を周りの人へとアピールして助けを求めている。
だが、朝から面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ、と言わんばかりに周りは無関心。
「女のケツより、男のケツだろ」
駒井靖夫の口癖だ。
今も駒井靖夫の前には、洒落たスーツを着た男が立っている。
少々の触れ合いは仕方のない満員電車。
毎回のように頭の中で、
「こんな場所で後ろポケットに財布を入れる奴の気が知れないよな」
前に立つ男を馬鹿にしながら、
スッ……
スボンの上から半分はみ出た長財布を出際よく抜き取った。
同時に、電車は次の駅に停車し、
「おっ、今日のは分厚いな」
懐に閉まった財布を手触りで確認しながら、
「降りまーす!」
ホームに飛び降りた。
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